作者別: 睡眠時無呼吸症候群外来
シリーズ「睡眠障害について」(5)睡眠時に起きる病気について

 睡眠時に起きる珍しい病気についてご紹介致します。
 
 まずは、むずむず脚症候群というものです。英語ではRestless leg syndrome、RLSともいいます。脚が休まらないという意味になります。この疾患は文字通り、足がむずむずして眠れなくなる疾患です。特に就寝時などに、脚を動かさずにはいられない衝動が起こる、というものです。なんだかよくわからないけど、動かさないと楽にならない。足をじっとしていられない、という症状です。 

1. 脚を動かしたいという強い欲求が存在し,また通常その欲求が,不快な下肢の異常感覚に伴って生じる
2.静かに横になったり座ったりしている状態で出現,増悪する
3.歩いたり下肢を伸ばすなどの運動によって改善する
4.日中より夕方・夜間に増強する

このような特徴があれば、むずむず脚症候群が怪しいということになります。特に夕方から増悪するという特徴もあり、原因はよくわかってはいませんが、貧血などで鉄が欠乏したときに起こりやすい、あるいは脳内から分泌されるドパミンが減少して発症するパーキンソン病と関係している、ともいわれています。むずむず脚症候群が疑われる場合では、専門の病院での投薬治療が必要となります。

 さて、この疾患に似ているものとしてアレルギーによって体がむずがゆくて眠れない、というものもあります。ご覧いただいている動画のシリーズにもあったかと思いますが、ホコリ、ダニなどによるアレルギー反応が強くでますと、体が痒くていたたまれない感じになったり、部屋のホコリ、ダニといった物質の吸引により喘息を起こしやすくなったりします。痒みなどがでると、いらいらして不眠の原因にもなります。また、アレルギー症状の中には自律神経の調節の影響を受け、夜中に悪くなるものも多いです。こうしたアレルギー症状が疑わしい場合には、もちろん薬を飲んだりすることも必要ですが、生活環境の調整も必要です。例えば寝具を清潔に保つ、アレルギー対策寝具に交換する、などの工夫が必要です。

 次にREM睡眠行動障害をご紹介しましょう。REM睡眠行動障害とは睡眠中に大声で叫んだり、暴れだしてしまう行動をとる病気です。このとき患者さんは夢をみていてそのストーリーに伴う行動をしようとして、通常なら体は動くことはありませんが、体が実際に動いてしまいます。そのためひどいときには側で寝ている人を殴ったり、ものを壊してしまったりすることがあります。睡眠にはNon REM睡眠とREM睡眠があります。櫻井武先生が面白い比ゆをしておられます。Non REM睡眠は脳と体の休息のための睡眠ですが、両者ともに活動が低下しています。喩えていうならばコンピューターのスリープモードということになります。一方REM睡眠の場合は脳の活動がみられ、いわばオフラインの状態である、つまりコンピューターは操作ができるが、ネットにはつながらない状態である、というのです。言い換えるとREM睡眠では本来、夢などの脳の活動がみられますが、オフラインですので体が動くことはありません。REM睡眠行動障害では夢のとおりに体を動かそうとして、体が動いてしまいますが、通常の動きとも違い前頭葉の抑制が効きませんので、むしろ粗暴になって制御の効かない状態になるわけです。

 睡眠中に起きる病気の幾つかご紹介してきました。Good sleepを得るためには、睡眠時間、睡眠環境、そして基礎疾患の鑑別、この三つの柱が重要、ということがわかりました。
(了)

シリーズ「睡眠障害について」(4)睡眠時無呼吸症候群について

 睡眠に関わる問題として、最近注目を集めている疾患の一つが睡眠時無呼吸症候群、通称SASともいいます。

 2003年にJR山陽新幹線で起きたオーバーランにより社会的に注目されました。SASという病気からくる昼間の眠気症状により、運転手が眠ったまま駅で停止せず走り続けてしまったのです。

 しばらく前の時代までは昼間眠くなると「気持ちがたるんでいるからだ」などその人のやる気の問題として捉えられてきましたが、このニュースによりSASという病気があることが社会的に知られ、現在に至るまでに徐々に認知されてきました。

 動画をご覧ください。これはSASの患者さんで行ったポリソムノグラフィー、略してPSGという睡眠検査の波形です。こちらにありますように、胸とお腹につけたバンドのセンサーの波形は呼吸運動をしているのにもかかわらず、鼻につけた気流のセンターは停止を認めています。この間、1分半程になります。ずっと呼吸が止まってしまうことはないのか、と聞かれることがありますが、そういうことはないと考えられています。何故なら脳の中には二酸化炭素を検知するセンサーがあり、無呼吸により二酸化炭素がたまってくると、もっと呼吸しなさい、と脳、特に脳幹と呼ばれる、人間の生命を維持するための中枢指令センターとも言うべき場所から命令がでてくるからです。こちらの方も呼吸を大きくすることで、呼吸が再開しています。このタイプの無呼吸は閉塞性と呼ばれ、特に仰向けで寝ると舌が下の方に落ち込んで、加えて筋弛緩作用などにより周囲の組織も落ち込んで、空気の通り道をふさいでしまうタイプの無呼吸です。大部分のSASの方はこの閉塞性というタイプに属します。従って無呼吸というのは、呼吸が止まってしまう、というよりかは睡眠中の気道閉塞により酸素の交換が一時停止してしまう、という言い方の方が正確な病態を表していると私は考えています。

 一方、中枢性無呼吸というタイプのSASもあります。これは先ほどの二酸化炭素のセンサーが何らかの理由で鈍ってしまい、呼吸の指令を出すのが遅くなってみられるもので、特に頭の病気や心不全などの病気で出てくることが知られています。また閉塞性のタイプと合併してみられることもあります。これにしても二酸化炭素のセンサーが鈍っているだけで、時間の遅れはありますが、きちんと呼吸の指示は出しています。こちらは、睡眠中の呼吸ドライブの反応性の低下、という言い方が正確と思われます。

 それでは、無呼吸があるとどんなことが起きるのか、どうして昼間眠くなるのか説明します。
 
 無呼吸が起きると、危険な状態ですので、交感神経が働き、人間は半分覚醒に近い状態になります。重症のSASの人はこれが一時間に30回もみられ、多い人では100回もみられます。睡眠しても一分に一回は起きているような状態になると、睡眠の質が低下するのは明らかですね。従って昼間に眠くなります。これについてはCPAPという治療が有効ですので、お近くの医療機関ないし当院外来にご相談ください。また横向きで寝ると無呼吸が出ない方もいます。抱き枕など寝具を工夫することにより横向きで寝られて無呼吸がなくなることが期待されます。試してみることもお勧めされます。

シリーズ「睡眠障害について」(3)不眠症はなぜ起こる

 前回みてきたように、夜の睡眠は非常に重要な意味をもつことがわかっています。それでは寝たい夜に眠れなくなるのはどうしてでしょうか?

 不眠の原因として大きく次の7つが挙げられます。
①生活習慣上の要因
(パソコンや携帯電話などのブルーライトを夜浴びたり、就寝時間がまちまちだったりするためです。またアルコールやカフェインの摂取なども影響します)

②心理的要因
(この時間に寝なくてはならない、などの心理的拘りが強いとかえって眠れないことがあります)

③合併疾患に伴う身体症状
(脳の疾患、喘息、心不全、頻尿、アレルギー性疾患など症状に伴い不眠となります)

④睡眠時に起こる疾患
(むずむず脚症候群)(足がむずむずして眠れないのをRestless leg syndrome、むずむず脚症候群というものがあります)

⑤精神疾患
(うつ病やなんらかの精神的トラウマのあと発症する心的外傷後ストレス障害などでは慢性的な不眠をきたすことがあります)

⑥概日リズム睡眠障害 = 「体内時計の不調」
(時差ぼけ、夜勤などの交代性業務に伴うもので不眠になります)

⑦薬剤性
(代表的なものは内服のステロイド剤ですが、治療に使用する薬剤によっては不眠になることもあります。)

 このうち⑥番目の概日リズム障害について説明します。概日リズムというのはcircadian rhythmともいいますが、体内時計のことです。体は、24時間の周期で体内の生理的現象が一定のリズムをもって活動しています。体内時計の調節により睡眠や交感神経、副交感神経などの自律神経のon/offを行っています。

 実際私共循環器、内科で扱う疾患である、高血圧、狭心症、気管支喘息などは体内リズムに影響を受け、症状が現れるため、一日のリズムや睡眠状態は病気のコントロールとも深い関係があります。
 
 この体内時計を調節しているのは脳の松果体(しょうかたい)というところから分泌されるメラトニンというものです。夜、暗くなるとメラトニンが増えて睡眠環境を整えることが知られています。夜パソコンや携帯のブルーライトに浴びると頭や体の中では昼間と勘違いして、眠気がなくなってしまいます。
 
 生活調整を中心に睡眠を改善したいという方は先程挙げたような生活の中での不眠となる原因を一つずつ解決し、規則正しい生活をすることが望まれます。また寝具も寝やすいものにするとよいです。私の患者さんの中でも寝具を変えて睡眠薬がいらなくなった方がいらっしゃいます。あとは認知行動療法という方法があり、下記の本がお勧めです。自分自身の睡眠を一度見直してみませんか?

参考文献: 認知行動療法で改善する「不眠症」 岡島義先生、井上雄一先生

シリーズ「睡眠障害について」(2)睡眠の重要性

 地球環境上の生物は全て昼と夜を経験してきました。およそ6500万年前に、原始の人類は猿から分かれて誕生しました。類人猿の多くは外敵から身を守るために樹上で生活していました。そして、サルの多くやヒトは、夜は休息していました。一方、夜は一番危険な時間帯です。夜行性の肉食獣などが迫ってくれば、急いで逃げる必要があるため、特に草食獣は眠りが浅いといわれています。
 
 人間も夜目がきかないので、何千万年もの長い間、暗闇が支配する夜は寝ており、太陽が昇るとともに起きてきた訳です。
 
 ところが、200年前に産業革命が起こり、ランプや電気が人間の日常生活に入ってくると人間は夜も活動できるようになりました。さらに現代の生活では、夜間に仕事をする方も多くなりました。インターネットの発達により海外ともリアルタイムにやりとりができるようになりましたが、当然時差が発生するため夜間の連絡になることもあります。
 
 便利な世の中になった結果、1日の時間が足りない、という言葉もよく聞かれます。足りない時間は睡眠をけずり、徹夜をすることも当たり前の世の中になりました。
 
 日本人の平均睡眠時間は大体7時間半といわれていますが、私の外来に来られる東京駅界隈のサラリーマン20代から40代男性の平均睡眠時間はおよそ5時間から6時間です。睡眠時間を削って仕事や日常生活にその時間を回している実情がよくわかります。
 
 しかし先ほどの話に戻ると、人間が夜間に活動するようになったのは、ここ200年ぐらいなのです。夜の睡眠を削ることで健康障害は出ないのでしょうか?
 
 睡眠の研究者たちは、断眠実験といって被験者を眠らさないでいるとどうなるか、睡眠の意義を確かめようとしました。実際には断眠の最長記録は11日で、いつかは眠らざるを得ないことがわかります。完全に睡眠を奪うことはできないのです。動物とヒトの断眠実験の結果を要約するとこのようなことが起きます
①注意力・集中力の低下(これは我々の日常生活でも経験されることです)
②体調不良、全身倦怠感
③妄想などの精神異常
④免疫力低下による感染症を起こす(動物実験では死亡してしまいます)

 さらに、研究者は研究を進め、睡眠の効果を調べました。
 
 それによると第一に心身の休養で脳と体を休める、これは明らかであることは日常経験からわかることと思われます。もう一つは記憶のデフラグと私は呼んでいますが、必要な記憶を増強し、不要な記憶は捨てる作業です。脳の代謝をよくして、脳の老化を防止する働きも認められます。
 
 今までみてきたように、現代人の生活は睡眠を犠牲にしがちですが、睡眠の重要性について考え直す時期にきているように思われます。

参考文献 「睡眠の科学 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか」櫻井武先生

シリーズ「睡眠障害について」(1)はじめに

 私のいままでの系譜をお話し致します。

 私は父親、祖父を歯科医にもちます。幼少時より診療所に出入りしていたので医療とは身近に育ちました。中高の頃、友だちの影響もあり、医師になりたいと思いました。その理由の一つは頭や体の機能はどうやってできているのだろうか、病気はどうしてなるのだろうか、という単純な疑問でした。もう一つは世の中の人のためになりたい、というものでした。自分の生きている意味がわからず、ゲーテの若きウェルテルの悩みのように当時悩みや葛藤の多い自分でした。自分が生まれてきた理由、なんでこの場所に生きて、色んなことを考えているのか、いくら考えてもわからず、出した答えが人のためになることで自分の存在意義をみつけよう、という若者のだしがちな短絡的な結論でした。

 ですから、医学部に入り、最初に興味をもったのが心理学でした。人の心の働きについての色んな解釈を勉強することで腑に落ちたことも多くありました。

 医学部の学年が上がるにつれ今度は臨床の勉強が始まります。私は内科学に惹かれました。二つの領域に主に関心がありました。

 一つは免疫学・自己免疫疾患の領域です。免疫は外界の細菌やウイルスを駆逐するための体の機能です。しかし、これが体の組織を攻撃することで多彩な症状をもつ多くの疾患があることを初めて医学部の勉強で知り、衝撃を受けました。もう一つは心臓のことです。その中で「心拍出量」は一分あたりの体積であることを教わり疑問にもちました。一分あたりならば「一分あたり心拍出量」という名前でもよかったわけです。人間が宇宙に存在し、時間軸の中で「動く存在」として捉えられる限り、時間あたりに拍出される血液の量が体の動きを規定します。従って、心拍出量も時間と関係する単位量でなくてはならない、ということだと腑に落ちました。心拍数が一分あたりの拍動数であることもこれと関係してくることです。

 さて、私は今循環器の診療と共に睡眠障害の診療も行っています。その仕事も色んな転機がございました。医師になってから、数年経過し大学院で睡眠障害の研究と診療をするようになりました。ここで一年ぐらい経過したときに共同研究者の寄付講座の延長がなくなり、自分の論文も書けていなかったので、一人で睡眠障害の仕事を続けていかないといけなくなりました。その後大学の中で他の科で睡眠センターを作ることになりました。このとき既に論文が一つ書けている状態でしたが、睡眠の診療をやめなかった大きな理由が二つあります。

 一つは、患者さんとの関係です。私は内科ですので、患者さんのお話を伺い病歴をとるのが仕事です。その中で多くの患者さんから色々教えていただくことがたくさんありました。医師は先生と呼ばれていますが、実は患者さんを先生として逆に多くのことを教えられています。元々私は口下手だったのですが、患者さんとお話しすることで、コミュニケーションスキルの勉強にもなりました。多くの睡眠障害の患者さんに来ていただくにつれ、これを天職にしたいという思いがつのってきました。

 もう一つは睡眠学に対する興味でした。実はこのシリーズでお話しするように睡眠は心臓のことにも関わってきますし、睡眠の質と体の病気は医学的に大きな関係があります。

 このようなことで現在睡眠と関わる仕事をさせていただいています。第二回からは睡眠の重要性から病気との関連についてお話ししたいと思います。

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