シリーズ「睡眠障害について」(2)睡眠の重要性

 地球環境上の生物は全て昼と夜を経験してきました。およそ6500万年前に、原始の人類は猿から分かれて誕生しました。類人猿の多くは外敵から身を守るために樹上で生活していました。そして、サルの多くやヒトは、夜は休息していました。一方、夜は一番危険な時間帯です。夜行性の肉食獣などが迫ってくれば、急いで逃げる必要があるため、特に草食獣は眠りが浅いといわれています。
 
 人間も夜目がきかないので、何千万年もの長い間、暗闇が支配する夜は寝ており、太陽が昇るとともに起きてきた訳です。
 
 ところが、200年前に産業革命が起こり、ランプや電気が人間の日常生活に入ってくると人間は夜も活動できるようになりました。さらに現代の生活では、夜間に仕事をする方も多くなりました。インターネットの発達により海外ともリアルタイムにやりとりができるようになりましたが、当然時差が発生するため夜間の連絡になることもあります。
 
 便利な世の中になった結果、1日の時間が足りない、という言葉もよく聞かれます。足りない時間は睡眠をけずり、徹夜をすることも当たり前の世の中になりました。
 
 日本人の平均睡眠時間は大体7時間半といわれていますが、私の外来に来られる東京駅界隈のサラリーマン20代から40代男性の平均睡眠時間はおよそ5時間から6時間です。睡眠時間を削って仕事や日常生活にその時間を回している実情がよくわかります。
 
 しかし先ほどの話に戻ると、人間が夜間に活動するようになったのは、ここ200年ぐらいなのです。夜の睡眠を削ることで健康障害は出ないのでしょうか?
 
 睡眠の研究者たちは、断眠実験といって被験者を眠らさないでいるとどうなるか、睡眠の意義を確かめようとしました。実際には断眠の最長記録は11日で、いつかは眠らざるを得ないことがわかります。完全に睡眠を奪うことはできないのです。動物とヒトの断眠実験の結果を要約するとこのようなことが起きます
①注意力・集中力の低下(これは我々の日常生活でも経験されることです)
②体調不良、全身倦怠感
③妄想などの精神異常
④免疫力低下による感染症を起こす(動物実験では死亡してしまいます)

 さらに、研究者は研究を進め、睡眠の効果を調べました。
 
 それによると第一に心身の休養で脳と体を休める、これは明らかであることは日常経験からわかることと思われます。もう一つは記憶のデフラグと私は呼んでいますが、必要な記憶を増強し、不要な記憶は捨てる作業です。脳の代謝をよくして、脳の老化を防止する働きも認められます。
 
 今までみてきたように、現代人の生活は睡眠を犠牲にしがちですが、睡眠の重要性について考え直す時期にきているように思われます。

参考文献 「睡眠の科学 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか」櫻井武先生

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