シリーズ「睡眠障害について」(1)はじめに

 私のいままでの系譜をお話し致します。

 私は父親、祖父を歯科医にもちます。幼少時より診療所に出入りしていたので医療とは身近に育ちました。中高の頃、友だちの影響もあり、医師になりたいと思いました。その理由の一つは頭や体の機能はどうやってできているのだろうか、病気はどうしてなるのだろうか、という単純な疑問でした。もう一つは世の中の人のためになりたい、というものでした。自分の生きている意味がわからず、ゲーテの若きウェルテルの悩みのように当時悩みや葛藤の多い自分でした。自分が生まれてきた理由、なんでこの場所に生きて、色んなことを考えているのか、いくら考えてもわからず、出した答えが人のためになることで自分の存在意義をみつけよう、という若者のだしがちな短絡的な結論でした。

 ですから、医学部に入り、最初に興味をもったのが心理学でした。人の心の働きについての色んな解釈を勉強することで腑に落ちたことも多くありました。

 医学部の学年が上がるにつれ今度は臨床の勉強が始まります。私は内科学に惹かれました。二つの領域に主に関心がありました。

 一つは免疫学・自己免疫疾患の領域です。免疫は外界の細菌やウイルスを駆逐するための体の機能です。しかし、これが体の組織を攻撃することで多彩な症状をもつ多くの疾患があることを初めて医学部の勉強で知り、衝撃を受けました。もう一つは心臓のことです。その中で「心拍出量」は一分あたりの体積であることを教わり疑問にもちました。一分あたりならば「一分あたり心拍出量」という名前でもよかったわけです。人間が宇宙に存在し、時間軸の中で「動く存在」として捉えられる限り、時間あたりに拍出される血液の量が体の動きを規定します。従って、心拍出量も時間と関係する単位量でなくてはならない、ということだと腑に落ちました。心拍数が一分あたりの拍動数であることもこれと関係してくることです。

 さて、私は今循環器の診療と共に睡眠障害の診療も行っています。その仕事も色んな転機がございました。医師になってから、数年経過し大学院で睡眠障害の研究と診療をするようになりました。ここで一年ぐらい経過したときに共同研究者の寄付講座の延長がなくなり、自分の論文も書けていなかったので、一人で睡眠障害の仕事を続けていかないといけなくなりました。その後大学の中で他の科で睡眠センターを作ることになりました。このとき既に論文が一つ書けている状態でしたが、睡眠の診療をやめなかった大きな理由が二つあります。

 一つは、患者さんとの関係です。私は内科ですので、患者さんのお話を伺い病歴をとるのが仕事です。その中で多くの患者さんから色々教えていただくことがたくさんありました。医師は先生と呼ばれていますが、実は患者さんを先生として逆に多くのことを教えられています。元々私は口下手だったのですが、患者さんとお話しすることで、コミュニケーションスキルの勉強にもなりました。多くの睡眠障害の患者さんに来ていただくにつれ、これを天職にしたいという思いがつのってきました。

 もう一つは睡眠学に対する興味でした。実はこのシリーズでお話しするように睡眠は心臓のことにも関わってきますし、睡眠の質と体の病気は医学的に大きな関係があります。

 このようなことで現在睡眠と関わる仕事をさせていただいています。第二回からは睡眠の重要性から病気との関連についてお話ししたいと思います。

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